iOS 15, iOS 16のSafariにおける地域情報の計測について
こんにちは。システム開発部のsonohaです。ニフティ温泉のWEBサイトの開発全般を担当しています。
ニフティ温泉ではユーザー分析のツールのひとつとしてGoogle Analyticsを利用し日々のサービス改善に活用しています。ただ、2021年頃から地域情報が上手くトラッキングできない事象が確認されていました。
どうやらiOSのプライバシー関連のアップデートによる影響のようなので、最近のiOSの動向も含めてまとめていきます。
目次
Google Analyticsで確認された数字の変化
Google Analyticsの「地域」ディメンションでは、リクエスト元のIPアドレスを元に、ユーザーがどこからアクセスしているのか大まかな地域を判別します。
弊サービスではこの「地域」ディメンションにおいて、2021年の10月頃から徐々に東京都からのアクセスの割合が増えていき、2022年の7月には昨年と比べて5倍となっていました。
しかし、7月はコロナウイルス感染症の第7波の拡大中であったこともあり、この数字には違和感がありました。
デバイスやOS別に数字を切り分けていくと、どうやらiOS 15のSafariを除外すると東京都からのアクセスはほとんど変化が無いようでした。
iOS 15のリリース日(2021年9月20日)と数字に変化が出始めた時期が合致するため、iOSのプライバシー関連のアップデートによってトラッキングが機能しなくなっているであろうことが見えてきました。
iOS 15 Safariのインテリジェント・トラッキング防止機能とは
iOS 15のリリースにおいて、Safariでは既知のトラッカーに対してIPアドレスを匿名化できるインテリジェント・トラッキング防止機能が強化されました。
Safariで既知のトラッカーによるIPアドレスを使ったプロファイリングからも保護できるようになったインテリジェント・トラッキング防止機能
引用:iOS 15 のアップデートについて
Google Analyticsはこの「既知のトラッカー」にあたるため、この機能を有効化することでIPアドレスを正しく取得できなくなります。
インテリジェント・トラッキング防止機能(Intelligent Tracking Prevention, ITP)は、CookieやLocal Storageの利用を制限することでユーザーをWEBサイトのトラッキングから保護する機能です。
2019年に発表されたITP2.3や2020年に発表されたITP full blockingがWEB広告業界を騒がせたことで有名ですが、それ以降もバージョン番号は更新されないもののマイナーチェンジが続いており、今回のアップデートもその一環と言えそうです。
Treasure Data社の記事によると、この機能によってIPアドレスが匿名化されると、IPアドレスベースでの地域情報トラッキングは都市レベルでは正常に機能しないようです。
例えば、神奈川県や埼玉県からのアクセスも東京都からのアクセスとして丸められているように見えます。
iOS 15を利用するユーザーが増えた結果この機能が有効化され、Google Analyticsでの計測に無視できない影響が出たのではないかと考えます。
iOS 15 iCloud+のプライベートリレーとは
インテリジェント・トラッキング防止機能に加えて、iOS 15ではプライベートリレー機能も注目されています。
iCloud+のサブスクリプションに登録すると、iCloudプライベートリレー(ベータ版)を使用して、Webサイトやネットワークプロバイダがあなたに関する詳細なプロフィールを作成するのを防ぐことができます。iCloudプライベートリレーをオンにすると、iPhoneから送出されるトラフィックが暗号化され、2つの異なるインターネットリレー経由で送信されます。これにより、Webサイト側からあなたのIPアドレスと位置情報が見えなくなり、ネットワークプロバイダもあなたのブラウズアクティビティを収集できなくなります。Webサイトまたはネットワークプロバイダが、ユーザの身元と閲覧しているWebサイトの両方を同時に把握することはありません。
引用:iPhoneのSafariでWebをプライベートブラウズする
iCloud+を有料契約すると、特別なプロキシを介して通信を行うことで、Safariで誰がどのWEBサイトを閲覧しているかの情報を匿名化できるようになります。
インテリジェント・トラッキング防止機能と異なるのは、次の2点です。
- 既知のトラッカー以外からも行動情報を匿名化できる(端末のIPアドレスを知っているのはApple社のみ)
- IPアドレスは匿名化されるが、地域の情報は保持される
後者については、Appleが公式に公開しているIPジオロケーションフィードを参考に、ユーザーのロケーションを推定できるようです。
ただし日本においては主要都市10つのジオロケーションしか登録されていないため、完全な地域情報は取得できなさそうです。
iOS 16の動向について
昨今のAppleのアップデートではプライバシー保護に重点が置かれています(iPhoneのCMでもプライバシー保護を強調していますよね)。
ただ、2022年6月に開催されたWWDC 2022ではIPアドレス匿名化に関する追加の言及は無く、プライベートリレー機能は依然ベータ版のようです。
今後のアップデートでより強固なプライバシー保護機能が実装される可能性も大きいため、引き続き動向を観察していくとともに、サービス提供者側もプライバシー保護の意識を高めていくことが重要と考えます。
今後の地域情報の計測について
従来の方法では地域情報を取得できなくなる恐れがあるため、目的に合わせて別の手段を検討する必要があります。
対象デバイス・対象OS・対象ブラウザの除外
数値分析であれば、iOS 15とiOS 16のSafariを除外することで、概ね見たい値を取得することができます。
ただし、一般に最新iOSのシェアは無視できない値であるため、除外による意図しないバイアス発生などについてはあらかじめ意識する必要があります。
また、今後はAndroidやその他ブラウザでもプライバシー保護が強化される(Privacy Sandboxなど)ことを考えると、こちらは期間限定の対応となります。
ジオロケーションフィードの利用
先に紹介した、Appleが公式に公開しているIPジオロケーションフィードを参考にすることで、プライベートリレーで匿名化された地域情報を推定できます。
ただし、登録されている都市には限りがあるため、現状は完全な地域情報は取得できないと思われます。
ネイティブアプリの利用
現在は、インテリジェント・トラッキング防止機能およびプライベートリレー機能の対象はSafariに限られるため、WEBアプリではなくネイティブアプリでサービスを展開することで位置情報を活用できる可能性があります。
ただし、データの利用範囲をユーザーに対して適切に案内し、許諾を得てから取得する必要があります。
また、ネイティブアプリ内のWebviewはインテリジェント・トラッキング防止機能の対象なので、注意が必要です。
ユーザーの閲覧情報や入力情報の活用
コンテンツのレコメンドなどに地域情報を活用したい場合は、WEB広告などで利用されている次の方法を検討してみても良いかもしれません。
- コンテンツターゲティング:サービス内での検索行動や閲覧したページの内容から、ユーザーの関心対象となる地域を推定し活用します。
- オーディエンスターゲティング:たとえばサービスへの会員登録時にプロフィールの一部として地域情報を入力してもらい、その内容を活用します。
いずれの手段においても、ユーザーに不利益の無いように情報の利用範囲を適切に案内する必要があります。
まとめ
2021年の10月からGoogle Analyticsの「地域」ディメンションにおいて東京都の割合が増加する事象が見られましたが、どうやらiOS 15以降のインテリジェント・トラッキング防止機能によって地域情報が丸められていることによるもののようでした。
今後もAppleに限らずプライバシー保護が強化されていくと予想されるため、地域情報を活用したい場合には適切な方法をもって取得するか、あるいは別のアプローチでサービスを展開することも視野に入れるべきと考えます。
掲載内容は、記事執筆時点の情報をもとにしています。